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【ZIW2019:米Anark社様】つながる、協調する、デジタルスレッドで得られる効果と実装上の課題

Anark Corporation(以下、Anark社)は、ボーイング、ロッキードマーチン、シスコ、TEコネクティビティ、コーフ、エリクソン、ハネウェル、ダイムラー、GE、米国国防総省など、業界をリードするグローバル企業や組織に“デジタルスレッドソリューション”を提供しています。ZIW2019では、製品サイクルのさまざまなフェーズの情報をデジタル化する手段として、デジタルスレッドのアプローチがいかに効果的であるか、導入の際にどのような課題があるのか、そしてそれをどのように乗り越えるべきなのか、Anark社の主要顧客の導入事例を通じて、ご講演頂きました。

【デジタルスレッドの変革チャンスが到来】

“デジタルスレッド”は、製品ライフサイクルにおいて、企業や組織の間でサイロ化(孤立化)しているデータとワークフローをデジタルでつなげることを意味します。これにより、正しい情報を正しいタイミング、正しい場所で情報を取得し、正しい意思決定を行えます。

昨今、デジタルスレッドが注目を集めています。その背景として、企業が多様化するニーズに追従するため、製品の高度化や大幅なコストダウンが進む一方で、高品質の製品をいち早くマーケットに投入しなければならないプレッシャーがあることが考えられます。Industry4.0やデジタルトランスフォーメーションといったコンセプトが普及する中、どの企業もデジタル化の戦略をきちんと実行することが避けて通れなくなっています。そうしなければ、環境変化や競争についていけないからです。実際にデジタルスレッドに取り組んだ企業は、製品投入時間も、設計製造のリードタイムも短縮し、無駄な作業がなくなり、より競争力が担保できるようになっています。このことは外部の調査会社(※)の結果から明らかになっています。

(※) Benchmark & research studies presented by LNS Research, US Navy Naval Air Command, and National Institute of Standards & Technology (NIST)

【デジタルスレッドの実装課題】

デジタルスレッドのソリューションを導入する際、PLM/ERPベンダーが対処すべき課題は以下となります。

  1. 1企業内にPLM/ERP/電気CAD/メカCADのシステムが複数に分かれているため、システム機能のギャップ、制約により、システム間でのデータのやりとりやワークフローの運用が難しい。
  2. 既存ソリューションは古く、独自に作られているため、下流の製造/フィールドサービス領域で技術データを簡単に扱えない。
  3. 多種多様な技術データタイプ、ファイル形式の管理が存在する(紙媒体/レガシーデータ含む)。
  4. M&Aにより、1企業内でも事業体ごとに異なるPLM、ERP、電気CAD、メカCADが存在する。これにより共通機能の統合化が阻害され、組織間のコミュニケーションとコラボレーションが難しい。
  5. プロセスと企業風土の変化。何十年も同じ部門で同じことをやっているお客様に対して、デジタル変革の賛同を得ることは難しい。

【デジタルスレッドの有効な実装手段】

Anark社が提供するデジタルスレッドの実装手段として、テクニカルデータパッケージ(以下、技術データパッケージ)と呼ばれる考え方があります。製品ライフサイクルの技術データを一つにまとめてデータパッケージ化し、下流のサプライチェーン、調達、製造、フィールドサービスの領域でも技術データを簡単に使えるようにします。これにより、製品ライフサイクルでの異なる組織間、異なるシステム間のデータとワークフローをデジタル化し、その間で行われるコミュニケーションとコラボレーションを改善することができます。電気CAD、メカCAD、PLM、SCMなどの様々なデータソースからデータを持ってくることが可能です。目的に合わせてフォーマット上のデータを再配置することができます。作成したコンテンツは、PDFファイルまたは標準Webブラウザで共有することができます。レガシー図面やマニュアル、見積書や仕様書、スペック情報なども追加情報として添付することができます。

【米国防衛業界の業界標準】

米国防衛業界ではAnark社のテクニカルデータパッケージの3D PDFフォーマットが業界標準となっています。米国国防総省の案件では基本的に3D PDFフォーマットでの出力が必須要件となっています。PDFファイルは無償のAdobeリーダーで閲覧可能でそれ以外の追加アドオンは不要です。米国国防総省の海軍省が作成したPDFでは、ページ毎に2D図面と3D図面が分かれてレイアウトされています。メカCADからはCADモデルと製造情報を持ってきています。

【図研の電気CADとも連携可能】

図研の電気CAD、CR-8000のPCB回路図、レイアウト図、パーツデータを技術データパッケージに入れることができます。2Dでも3Dでも設計者が見たいレイアウトとビューでフォーマットを配置できます。Webブラウザ上でPCB回路図、レイアウト図、パーツデータを相互にクロスリファレンスできます。パーツリストからアイテムを選び、PCBレイアウト図でハイライト、回路図も参照することができます。

【OEM、サプライヤ間のサプライチェーンポータル】

GEはサプライヤとの間の入札プロセスでAnark社のWebプラットフォームを活用しています。技術コンテンツは発注書の一部として提供されます。コラボレーションツールによって、サプライヤはWeb上で質問をすることができ、理解を明確にすることができます。GE Powerの約2万社のサプライヤーのうち、約1000社が、3D PDFまたはMBE Webコンテンツで公開しているAnark社の3D MBDデータを使っています。インターネットと標準ブラウザ機能があれば、どこからでも見られます。ポータル内でやりとりされる技術データやコメントはセキュアに管理され、トレーサビリティも可能となります。

【製造現場の作業指示を3Dビジュアル化】

Anark社の航空宇宙やオートモーティブ分野における多くのお客様が、Anarkプラットフォームを使って、製造現場でワイヤーハーネスを配線するための作業指示書を3Dビジュアル化しています。これらお客様は、紙のやりとりや文書チェックに非常に多くの時間を費やしており、作業指示を行う前に必要な作業の約50%を費やしていました。ワイヤーハーネスの配線を担当する組み立て作業者は、手戻りにより作業が繰り返されることがありました。作業指示の内容を3Dモデルに変換することにより、製造現場で必要な情報をリアルタイムで取得して簡単に検証し、製造および組立作業の効率を向上させることができます。

【デジタルスレッドを成功に導くための3つのポイント】

デジタルスレッドで成功するために何をすべきか。一つはオープンスタンダードであることです。多くのベンダーで独自のシステム、フォーマットがあり、それが企業や組織間のデータのやりとりを阻害しています。しかし昨今は、誰でも必要な時に必要な場所で必要なデータにアクセスできることが求められます。Anark社の技術データパッケージはオープンスタンダードに準拠しています。PDFファイルは無償のAdobeリーダーで閲覧可能、Webコンテンツはインターネットと標準ブラウザ機能でどこからでも見れます。

二つ目はパートナーシップです。デジタル戦略をすべて一社で行うことはできません。複数のドメインを跨るデジタル改革を提案できるグローバルレベルのパートナーが必要です。図研とはロッキードマーチン、ハイドロケベック、ボーイングなどの共通顧客にそうした企業レベルの価値を一緒に提供した実績があります。これからも図研と協力していくことで、日本のモノづくり基盤も強化できると信じています。

最後に組織風土の課題に向き合う必要があります。デジタル改革には組織改革が伴うからです。プロセスを変えるためには賛同を得ることが必要です。そのためには経営陣のマネジメントサポート、現場チームのメンバーと連携し、風土を変えることが必要となります。重要なのは理想的なプロセスが何か、テクノロジーが何かを考える事です。デジタル環境は急速に変化しています。日々の業務やデータ、ワークフローなどのプロセスは毎日変わります。ITもプロセスの変化に合わせて進化する必要があります。Anark社の顧客もこのような考え方で素晴らしい成功を収めています。Anark社は皆さんのデジタル改革の一部になるべく、支援したいと思います。